近年、立ちながら作業ができるスタンディングデスクに注目が集まっていますが、使用するとどのような効果があるのでしょうか。
また逆にスタンディングデスクを使用することにデメリットは存在しないのでしょうか。
これらについて本記事で取り上げてみます。
座り作業、ワークデスクの問題点
勉強するとき、作業や仕事をするときなど、これまで座って行うのが当たり前でした。
しかしずっと座っていることは、健康面で悪影響があることがわかってきています。
具体的には、
- お尻や腰を痛めやすい
- 病気のリスクが上がる
- 疲労が溜まりやすい
といった欠点があります。
それにもかかわらず、日本人は世界的に見ても1日の中で座っている時間が長いことが知られており[^1]、意識的に改善すべきであると言えます。
お尻や腰を痛めやすい
椅子に座った姿勢(座位)では、お尻にある大殿筋や腰にある椎間板へ体重が集中し、負荷が大きくなります。
とくに椎間板への負荷は、立っているときと比べて40%負荷が上がると言われています。
座っているときのほうが全身への負荷が小さいように感じられますが、体の一部への負荷は大きくなっているため、座ることを長時間続けているとすぐに痛めてしまう原因となります。
病気のリスクが上がる
人間の筋肉のほとんどは下半身にあると言われており、ふくらはぎが「第2の心臓」と呼ばれるように、足の筋肉を動かすことは全身に血液を循環させることに大きく貢献します。
しかし座った状態では下半身は基本的に静止したままになり、血液の流れが悪くなります。
これが根本原因となり、肥満、糖尿病、脳血管疾患、がんといったあらゆる病気のリスクを上昇させてしまうのです。
8時間以上座り続けると、死亡リスクが1.2倍になることがわかっています。
疲労が溜まりやすい
血流の悪化は、病気までもいかなくても、短期間の間に日常的にも悪影響を及ぼします。
座る姿勢では体の中央付近をL字に曲げたままとなり、血液中の老廃物を除去する器官である腎臓の血流を悪くさせます。その結果、腎臓の機能が低下し、老廃物が血液中に残留してしまい、疲労がなかなか取れない肉体になってしまいます。
また全身の血流の悪化は、肉体的な不調だけでなく精神的にも悪影響があり、12時間以上座り続けることでメンタルヘルスの悪化する確率が3倍になるとも言われています。
スタンディングデスクのメリット
座り続けることによる悪影響については上記で説明しました。
スタンディングデスクを使用し立った状態を取り入れて作業することで、このような悪影響を回避できます。
その結果、以下のようなメリットが生まれます。
- 心身の状態の改善
- 病気のリスク低下
- 生産性の向上
心身の不調の改善
立っている状態ではお尻や腰を圧迫しないため、これらの痛みが発生しにくくなりますが、それだけではありません。
スタンディングデスクを使用すると、作業中でも立っているため、体が簡単に動かせます。
とくに下半身の筋肉を動かすことで全身への血行が促進されます。
その結果、首や肩のこりや痛みが改善されたり、全身の疲労感がすぐ取れるようになる効果が期待されます。
また脳への血行も良くなり、メンタルの向上・改善も見込めます。ストレスも蓄積しにくくなります。
病気のリスク低下
座っている時間を減らすことで、変に背中を丸めたり腰に負荷をかける時間が短くなり、姿勢が良くなります。
また下半身の筋肉を使うようになるため、消費カロリーが増え、作業しながらでも運動不足が解消されます。
これにより、肥満になりにくくなり、生活習慣病にかかるリスクも低くなります。
スタンディングデスクを使用することで、食後の血糖値変動が43%減少するというデータもあり、糖尿病のリスクも減らせると言えます。
全身の血流を促進できるので、さまざまな病気に対しての予防効果が期待できるでしょう。
生産性の向上
スタンディングデスクを使用すると集中力・注意力がアップし、作業の生産性が向上します。
スタンディングデスクを導入して一番最初に実感できる効果が、眠気を感じにくいことでしょう。
足の筋肉を使っている状態では眠気がやって来にくいため、食後であっても集中しやすくなります。
またスタンディングデスクによって気分が向上するという報告もあり、モチベーションを下げずに作業に取り組めるように働きかけてくれます。
スタンディングデスクのデメリット・注意点
スタンディングデスクにメリットがあることをここまで述べてきました。では、逆にデメリットはないのでしょうか。
結論から言うと、デメリットは存在します。しかし注意して使用することで、デメリットは回避でき、良い恩恵のみ受けることも可能です。
スタンディングデスクを使用することのデメリットは下記になります。
- 長時間立ち続けると逆に健康に悪い
- 足が疲れやすい、慣れるまで時間を要する
長時間立ち続けると逆に健康に悪い
「座り続けることが体に悪いのであれば、ずっと立っていればいいのではないか」と思うかもしれませんが、実はそう単純ではありません。静止状態が続くのであれば、たとえ立っていても体に悪いです
。
一日の大半を座っている人と立っている人を比較すると、長時間立っている人は心臓病の発症リスクが2倍になるという研究報告があります(1)。
スタンディングデスクは、「座る」「立つ」を交互に切り替えて使用するのが正しい使い方です(後述)。
足が疲れやすい、慣れるまで時間を要する
スタンディングデスクで立ち作業をしていると、一番問題となってくるのは腰や足が痛くなってしまい、長時間集中することができなくなることでしょう。
デスクの高さやPCモニター等の高さを微調整することで解決する場合もありますが、どれだけ最適な高さになっていても、慣れるまでは違和感や痛みが発症する可能性が高いです。
これは慣れの影響が大きく、慣れてしまえば解決しますが、それまでに時間がかかるというのが欠点でしょう。
足の痛みについては、足への負担を小さくするクッション性のある履物や敷物を使うことで軽減できます。足を動かしたときに発生する音も小さくでき、周囲に気を使う必要もなくなります。また足を動かし、足の血液の循環を促すことでも足の痛みを緩和できる可能性があります。
スタンディングデスクの使い方
「立つ」「座る」を切り替える
先に述べたように、スタンディングデスクは「座る」「立つ」を交互に切り替えて使用するのが基本の使い方になります。
スタンディングデスクに慣れないうちは、1時間座ったら15分立つサイクルを繰り返すのでも十分座りすぎのデメリットが軽減できます。
慣れてきたら比率を「座位:立位=1:1~1:3」にするのが推奨されています。
具体的には30分座ったら30分立つサイクル、さらには15分座ったら45分立つサイクルです。
スタンディングデスクの使い始めは腰や足が痛くなることが多いので立つ時間は短くし、徐々に伸ばしていくのが無難でしょう。
立ちながら運動する
こちらは比較的上級者向けの方法となりますが、足を基本的にずっと動かしながら作業をする方法もあります。
運動している状態では、筋肉を動かし血行を促進し続けているため、静止状態で立ち続けることのデメリットもほぼありません。
病気のリスクは下がり、足の痛みも発生しにくくなります(足の痛みについては、慣れるまでは発生する可能性が高いですが)。
また常に脳に血液を送り、脳のパフォーマンスが高い状態を維持し続けるため、もっとも生産性が期待できると言えます。椅子も必要ありません。しかし体が常に動いて揺れるため、細かい作業や繊細な作業(イラストを描く、工作をするなど)には向かない、慣れるまでは全身の疲労感が大きいという欠点があります。
運動としては、その場で足踏みするだけでも効果があります。
吸音性・抗疲労マットの上で行うのが手っ取り早いですが、より負荷をかけたい人はステッパーやランニングマシン(トレッドミル)を使用するのが良いでしょう。
他にも、デスクの高さを高くしたくないのであれば、自転車のペダルを漕ぐ運動ができるフィットネスバイクを使用しながら作業をするのも手です。
スタンディングデスクの選び方
スタンディングデスクにはさまざまな種類があり、それぞれの状況に応じて適した物を選ぶのが良いでしょう。立つだけでなく座ることも考えると、デスクだけでなく椅子についても考慮する必要があります。
スタンディングデスクの種類
スタンディングデスクには、以下の3タイプがあります。
- 昇降タイプ: 高さ調整が可能。一般的な低い椅子に適した高さから立ったときの高さまで動かせるものが多い。
- 高さ固定タイプ: 高さ調整は不可。立ったときの高さから動かせない。
- 卓上タイプ: 高さ調整が可能(例外あり)。ローデスクの上に乗せて、嵩上げして立ったときの高さにする。
昇降タイプ
この中では、立ったときと座ったときに合わせて合わせた高さに変更でき、作業スペースも広い昇降タイプが万人にオススメできます(シット-スタンディングデスクとも呼ばれます)。
高さ変更の方法として手動式、ガス圧式、電動式があります。
中でも電動式は、高さ調整をする際に人の力を必要としないので便利です。
電動式昇降タイプは価格が高いものばかりでしたが、最近は手の届きやすい物も見かけるようになりました。
高さ固定タイプ
高い椅子を使用する、または立ちながら運動をするので椅子が必要ない人であれば、高さ固定タイプも選択肢に入ります。コストが低く抑えられますが、人それぞれの身長に合わせて高さを微調整できないのが欠点です。
卓上タイプ
卓上タイプはローデスク(座って使う机)の上に乗せて使用するタイプです。
座って作業するときはローデスクから取り外すかローデスクの空いたスペースを使用し、立って作業するときにはローデスクの上に設置して使用するスタイルになります。
スタンディングデスクと椅子の組み合わせ
立つ・座るの両方に対応できる机と椅子の組み合わせとしては、下記が現実的でしょう。
- セット1: スタンディングデスク(昇降タイプ) + 低い椅子
- セット2: スタンディングデスク(昇降 or 高さ固定タイプ) + 高い椅子
- セット3: スタンディングデスク(卓上タイプ)+ ローデスク + 低い椅子
座る時間に快適さを求めるのであればセット1、座る時間を極力短くしたい場合にはセット2、コストを低くスタンディングデスクを導入したい場合にはセット3を選択するのが良いでしょう。
セット1. 昇降タイプ + 低い椅子
セット1での低い椅子というのは、床に足をつける一般的な高さの椅子のことで、オフィスチェアやゲーミングチェアなどいろいろと選択肢があり、快適なものもあります。
座って作業するときにはこの椅子に座り、机をローデスクの高さまで下げて使用し、立って作業するときには机の高さを上げて使用するスタイルです。
立つ・座るに応じて、机の高さを頻繁に切り替えることになるため手動式だと苦労します。最低でもガス圧式、可能であれば電動式にしたいところです。
セット2. 昇降タイプ or 高さ固定タイプ + 高い椅子
セット2は、基本的に机は立ったときの高さに固定しておき、座るときには体が高い位置に来る椅子を使用するスタイルです。机は立った状態のみに合っていれば良いので、高さ固定タイプのスタンディングデスクでも対応可能です。昇降タイプの場合でも、調整機構が電動式・ガス圧式である必要がありません。つまり、卓上タイプのスタンディングデスク以外であれば、どれでも利用できることになります。高い椅子に該当するのは一部のカウンターチェアぐらいであまり選択肢がないのが欠点ですが、机を上げ下げする手間がかからない点、比較的コストが抑えられる点が長所となります。
椅子は座面高さが70cm前後になるものを選びましょう。
セット3. 卓上タイプ + ローデスク + 低い椅子
セット3は、一般的な高さの机(ローデスク)と椅子を使用し、立つときだけ机の上に卓上タイプのスタンディングデスクをプラスするスタイルです。
一般的なローデスクと椅子を使いまわせるため、比較的低コストで導入できお試しにはちょうどよいですが、立つ・座るを切り替える際に、卓上スタンディングデスクを移動するのが手間となります。
移動せずに使用する場合であっても、座って作業するスペースと立って作業するスペースの両方が必要になってしまう点が欠点となります。
まとめ
座る時間が長いと肉体的・精神的にも、作業効率の観点からも悪影響があります。これらを回避するにはスタンディングデスクを導入するのがオススメです。導入後は「座位」「立位」を定期的に切り替えて作業をするか、運動をしながら作業をするとデメリットもほぼありません。
予算の関係もありますが、余裕があるのであれば、スタンディングデスクの中でも電動式昇降デスクの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
スタンディングデスクの導入以外にも、勉強や作業効率を上げられる要素はさまざまあります。気になる方はこちらの記事もチェックしてみてください。
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