家の中の一部屋を集中できる空間にし、仕事のための作業スペースや勉強スペースなどとして活用したい人も多いと思います。人は周りの環境に大きく影響を受けるので、当然、集中しやすい環境にしなければ、作業や勉強がなかなか進まずはかどらないということになりかねません。
本記事では、自室や限られた空間を集中に適した生産性の高い環境にするための要点や部屋づくりのポイントを解説します。
集中できる環境づくりの基本の考え方
そもそも集中しやすい環境づくりに必要な要素は何でしょうか?
基本となる考え方として、以下の3点を押さえることが重要です。
- 誘惑の排除
- 不快感の排除
- 健康状態の維持
基本1. 誘惑の排除
現代ではゲーム、テレビ、スマホ、漫画、音楽、SNSなど、家の中で手軽に楽しめるコンテンツやアイテムが身近にありふれています。
「この時間だけ遊ぶぞ」と事前に決めておいた範囲で楽しむ分には何も問題ないですが、集中すると決めた時間にもかかわらず、つい遊ぶためのものに触りたくなり気が散り、しまいには作業をほっぽり出してしまうということが起こってしまいます。
とくにYouTubeやNetflixなどの最近のサービスはいかにユーザーを引き込み、時間を割いてもらえるかをひたすら研究し構築されたシステムなので、人の意思だけで正面から抗おうとしても誘惑に打ち勝つことが困難です。
そこで重要なのが、このような誘惑をいかに集中する環境から排除できるかという点です。人の意思ではなく、環境によって誘惑を振り切る必要があります。
基本2. 不快感の排除
当然、人は居心地の良い場所に長くいたがります。逆に不快な場所にはあまりいたいとは思いません。体中がかゆいのに集中しろと言われても無理なように、不快なことは集中を妨げます。
集中用のスペースに行きたいと思わせ、作業中もそれのみに集中できるようにするためには、不快感を排除し、快適で安心な空間にすることが重要です。
基本3. 健康状態の維持
ひどい風邪にかかっている状態で集中するのは至難の業です。他にも、憂鬱で気分がすぐれないときは何もする気になりません。これらは極端な例ですが、肉体的・精神的に健康な状態でなければ本来の集中力は発揮できません。
逆に言えば、健康的な状態を維持できるような環境であれば、脳のパフォーマンスは向上し、より集中して効率よく作業・勉強ができるようになります。
集中力を左右する環境要素
自分が机に向かって何かに集中している状態をイメージしてみてください。このとき、周りの環境はどのような状態だと、より深く集中できると思いますか?集中する上で重要となる環境要素にはどのようなものがあるのか、どんな状態が好ましいのかを、上記の基本要素3つと絡めて解説します。
視界に入る物
人間は五感の中でもとくに視界から多くの情報を得ています。当然、環境づくりをする上で、集中力に影響を与える視覚的な要素は多く、その効果も大きいです。その中でも部屋の中に設置している物体は視界の中心に入り注意を引きます。
作業・勉強に使う道具
作業している最中に、視界にゲーム機が入ってきたらどうなるでしょうか。「ちょっと触ってみたいな」「どこまで進めたかな、続きが気になるな」など、ゲームがやりたくなり、作業を中断してしまう人は多いはずです。このように、集中を維持するためには容易に誘惑となるものが目に入らないようにする必要があります(基本要素1. 誘惑の排除)。
作業と関係ない物は、目に入るだけで作業とは別のことに意識を持っていきかねないため、基本的に目に入りづらく手の届かない場所に置くべきです。
置いておく物を減らすことは、整然とした空間維持(後述)にも寄与します。
逆に作業に関係した物がすぐ目に入るようにしておくと作業内容に意識がいき、すぐに集中して作業に取りかかれます。
自然を感じさせる物、安心感・モチベーションを上げる物
作業と関係のない物であっても、例外的に集中力アップに貢献するものがあります。それは自然を感じられる物と、見ていて安心感が感じられたりモチベーションが上がる物です。具体的なアイテムは後で紹介しますが、机などのすぐ目に入る位置にこれらの物を配置しておくと、適度なリラックス効果や自己コントロール感が得られ、より快適で魅力的な空間になります(2. 不快感の排除)。ただしいろいろなものを置きすぎると散らかった感覚になり、逆に不快感を感じますし、置くものが頻繁に意識を引き込んでしまうようですと誘惑になるため注意です。
空間
部屋全体の空間は、作業中に視界の中心に入ってくることは少ないかもしれませんが、ぼんやりと視覚情報の一部として入り、集中力に影響を与えます。
開放感を感じる空間
閉所恐怖症とまでいかなくても、左右が壁で狭い空間だと閉鎖感を感じ、不安になる人も多いはずです。一般的には、開放感を感じられるより広々とした空間のほうが安心感があり快適で、集中するには適していると言われています(2. 不快感の排除)。
また実際に作業をするときを考えても、狭く圧迫された空間では作業道具を広げるスペースが限られ、物理的にも不快になるため、広々と開放感のある環境のほうが良いといえるでしょう。
ただし、どの程度の空間で閉鎖感を感じ、どの程度以上で開放感を感じるのかは大きく個人差があります。
整理整頓された空間
誘惑となるものでなくても、作業と関係ないものやゴミが床や机の上に広がっていたらどうでしょうか。目的とは別の作業や掃除に意識が持っていかれる(誘惑される)だけでなく、あまりにひどいと、それを見るたびモチベーションが下がってゲンナリし、その場から離れたくなるかもしれません。「見慣れた空間だから気にならない」という人であっても、散らかっている空間での作業は脳のリソースを多く消費し、メンタルへの悪影響も考えられます。これを避けるためにも、集中する空間は整理整頓され、散らかっている印象を与えないような空間にするのが理想的です。(基本要素1. 誘惑の排除、基本要素2. 不快感の排除)。きれいに片付いていると探しものの時間も減るので、物理的にも恩恵があります。
光
光は部屋全体の雰囲気を変え、空間の演出に大きく影響を与えます。窓から入ってくる自然光を部屋に取り入れると、広く、開放感が感じられ、不安になりにくい空間になります(2. 不快感の排除)。自然光が難しければ、人工光の中では自然光に近い白色光が良いです。
また作業時に手元が暗いと目に疲れが生じやすく、しだいには肩こりや頭痛といった健康被害につながり、集中どころではなくなります。健康の面からも、集中状態を長時間維持できる環境にするには、照明も重要です(3. 健康状態の維持)。
音
音に関していうと、より静かで無音の状態がもっとも集中できます。自然音も良い効果があり、適度にリラックスでき、適度な集中状態に入れるだけでなく、周りからの気になる音・ノイズを打ち消すマスキング効果も期待できます(2. 不快感の排除)。作業中の音楽は、集中力の阻害になってしまうのでオススメはできません。音楽を聴くのは休憩中や集中する前にしましょう。
大気
見落としがちですが、室内の空気も集中力に関係しており、二酸化炭素濃度が上昇するにつれて集中力は低下します。
部屋の大きさにもよりますが、6畳程度の閉じきった部屋で作業していると、1時間しないうちに集中力に悪影響がでる程度の二酸化炭素濃度に達します。
このような空気汚染は人間の呼吸によるものなので避けることはできず、こまめな換気によって新鮮な空気を維持するのが理想的です(3. 健康状態の維持)。
また温度については、20~23℃が集中するのに適しているとされています。さらに脳のパフォーマンスに影響を与える匂いもいくつか知られており、レモン、ローズマリー、シナモンの匂いは集中力アップが期待できます。
体勢
今までの経験からすると、集中してやる作業や勉強は座って行うのが当たり前のように思われるかもしれません。しかし座りっぱなしはタバコを吸うよりも体に悪いことが判明しており、当然、集中力にも悪影響を与えます。逆に、適度に体を動かしながらのほうが生産性が向上し、長期的に見ても健康に良い効果があります(3. 健康状態の維持)。そのため体勢が座りっぱなしのままにならないような環境づくりが重要となります。
部屋決めのポイント
集中するための作業・勉強部屋を作る一番最初のステップは、どの部屋を使うか決めることでしょう。ここで、部屋を決めるときのポイントを紹介します。家の中に空けられる部屋がいくかあったり、引っ越しを考えていてこれから部屋探しをするような場合には、頭にいれておくと良いかもしれません。
部屋選びで押さえたいポイントは下記の3つになります。
- 騒音、排気ガスが少ないか
- 人の目があまりないか
- 広いまたは、換気しやすいか
騒音、排気ガスが少ないか
大きな騒音はそれに意識を持っていかれ、集中の邪魔になります。また排気ガスは不愉快な匂いがするだけでなく、実際に脳機能にも悪影響があります。これらを避けるために、車の通りが激しい道路沿いや頻繁に電車の大きな音が鳴り響く線路沿いの部屋はオススメできません。
可能であれば、騒音がなく、空気もきれいな自然に隣接した部屋が、より集中部屋に適していると言えるでしょう。
部屋選びの選択肢がないのであれば、騒音に関してはヘッドホンやイヤーマフなどのアイテムで、排気ガスに関しては空気清浄機で軽減することもできます。
人の目は少ないか
他人からの視線を感じるとそちらに意識を持っていかれ集中できません。直接見られていないとしても、視界に他人が入ってきたり、人の気配を感じたりすると落ち着かないはずです。そのため人通りの多い通路沿いで、しかも何も障害物がないような部屋は避けると良いでしょう。
逆に窓から植物が見えるような部屋だと、リラックスもでき安心感も得られます。
部屋は広いか、または換気しやすいか
広い部屋であるほど、人からの二酸化炭素の排出による空気汚染の進行は遅くなるため、集中する空間としてより適しています。部屋のサイズを選べるのであれば、大きい部屋を選択しましょう。部屋が狭い場合でも、きれいな空気が簡単に取り入れられる窓があれば、頻繁に換気をすればそのような問題もなくなります。狭く密閉された押入れのような、窓のない小さなスペースは避け、換気のできる場所を探しましょう。
部屋づくりのポイント
どの部屋を勉強や作業用の集中部屋にするのか決まったら、中身は具体的にどんな部屋にしたらよいのでしょうか。
机(デスク)
レイアウト
集中するメインのエリアとなる机ですが、どこに設置するのかレイアウトを決めなければなりません。いろいろ方法ありますが、例として以下のようなレイアウトがあります。
- 壁付け型: 机を壁に付けて配置する。作業時には壁に向った格好になる。
- → 場所を有効活用できる。視覚が制限され誘惑が少なくなる。
- アイランド型: 机を壁につけないで室内の中央近くに配置する。室内全体を見渡せる。
- → 圧迫感が少なくなる。
- 窓づけ型: 机を窓際に配置する。外の景色がすぐに目に入る。
- → 開放感が得られる。
机の配置場所は圧迫感/開放感と大きく関係がありますが、これは個人差がとても大きい要素なのでどれがもっとも良いレイアウトなのか断定はできません。いろいろ試してみて、自分に適したレイアウトを見つけ出すのが良いでしょう。
外の自然が見える窓があるのであれば、机は壁付けにして横に窓がくるレイアウトがオススメです。机に向かっているときは目の前が壁によって制限されているので誘惑が少なく、横からは自然光が入り開放感も感じられる配置になります。窓も近いので換気も容易です。L字デスクを使用する場合にもちょうどよいです。
机の種類
作業スペースが広がるので机は広ければ広いほど良いと言えますが、選ぶときに注目すべきなのは広さだけではありません。
上述の通り、作業中の体勢が集中力に大きく影響を及ぼし、常に座った状態になるのは避けねばなりません。
そこでオススメなのは立ちながら作業のできるスタンディングデスクです。
スタンディングデスクには昇降タイプ、高さ固定タイプ、卓上タイプがありますが、中でも調整機構が電動式の昇降タイプが多くの人にオススメになります。コストを下げたい場合や、既存の物を使い回すことを考える場合には他のタイプも検討してみても良いでしょう。
スタンディングデスクを使用する場合には、座った状態と立った状態を切り替えて作業するのが基本的な使い方になります。(上級者向けとしては、常に運動しながら作業する方法もあります)。
スタンディングの効果や注意点に関してはこちらの記事を参考にしてみてください。
収納
勉強や作業に使う道具だけでなく、リラックスするための物や趣味のためのもの、日常的に使う物など、さまざまな物を部屋に置いておきたい人がほとんどでしょう。そのときに必要になるのが収納です。集中するための部屋では、誘惑となるような物が目に入らないよう、また散らかった印象を与えないよう、基本的には中身の見えない収納を使用するのが良いです。
扉付きのカラーボックスや透明でない引き出しなどがこれに該当します。
クローゼットや押し入れがあるのであれば、扉を閉めればその中がわからないので、その中であれば透明な収納を利用するのも良い選択です。
収納するときには実際に使用する場面を想像し、同じジャンル・一緒に使用する物を固めて保管するのが望ましいです。たとえば、机のすぐ横の引き出しを開けると勉強道具が揃っており、趣味で楽しむ物はすべてクローゼットの中、というようにすると場所と行動がリンクするようになります。その結果、机横の引き出しを開けると勉強モード、クローゼットを開けると休憩モード、というように頭の切り替えが容易になる環境ができあがります。
また収納する場所については、集中するときに頻繁に使う物は机の近くに、そうでなく趣味や息抜きのための物はできるだけ手の届かない遠くに置くのがよいでしょう。
作業で必要な物は机の上に置いておくのがよいですが、あまり多くを広げておくと散らかっている印象を与えてしまいます。そんなときは、机に向かっている姿勢から大きく体勢を変えずに取り出せる収納の設置・活用を検討しましょう。たとえば、机の天板裏の引き出し、机のすぐ横の扉付きの棚などです。
趣味のための大きな道具やベッド
勉強や作業に集中しているときに使用しないものは、できるのであればすべて見えない収納に入れてしまいたいところですが、サイズが大きすぎて入らない物や、テレビやオーディオコンポ、ベッドなどの一度設置したらあまり動かしたくない物もあるかと思います。このような物も、視界に入ると意識を持っていきかねないため、できるだけ視界に入らないようにする必要があります。対策としては、パーティションやカーテン・ブラインド、家具などを使って集中エリアとリラックスエリアに分ける方法があります。集中を阻害する可能性のあるものはすべてリラックスエリアに設置し、そこに立ち入る時間を制限すれば、集中するときと息を抜くときに緩急が生まれ、集中力維持にも効果的です。
見える位置に置きたいもの・インテリア
集中部屋の中で見える位置に置くべきものは、基本的には勉強や作業に関係する物のみになります。しかし例外的に、自然を感じられる物や安心感・モチベーションを上げる物は見える位置に置くと良いと前に述べました。このような例外に該当する物の具体例は、下記になります。
- 観葉植物や造花、木・貝殻などを使ったオブジェ
- 家族写真やお土産で買った小物
- 目標や鼓舞する言葉が書かれた色紙
自然を感じられる物はリラックス効果があり、過度な緊張を緩め、脳を回復させる効果があります。生きている観葉植物であれば空気の清浄効果もあるので一石二鳥です。安心感を与えてくれるような物やモチベーションが上がるような、自分の好きなものも、すぐ見える位置に置くことで生産性が向上します。精神的な安心感が得られる、自分にとって居心地の良い空間となるためです。
ただしこれらも置く数が多すぎると乱雑感が生まれ、居心地の悪い空間となり逆効果になるため気を付けましょう。
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